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量子ドット 熱電変換

電変換とは、温度差を電気に直接変換することであり、再生可能エネルギー源のひとつとして注目されています。その原理は、物質の両端に温度差をかけることによって、電荷担体が高温側から低温側に移動し、両端に電圧差が生じるゼーベック効果です。熱電変換材料としては、主に半導体が用いられ、n 型半導体では電子、p 型半導体では正孔が、それぞれ電気伝導の電荷担体としての役割を担います。このような単純な原理で、利用が困難な排熱を用いた発電が可能であることが最大の利点です。また、熱電変換素子には駆動部がないため、他の発電方法に比べて、静音性、耐久性、信頼性に優れ、メンテナンスが不要、スケールダウンしやすいという特長もあります。これらの特長のおかげで、無人惑星探査機の原子力電池、製鉄所でスラブから放射熱を利用した発電、体温を熱源とする腕時計などに既に使用されており、自動車の排気ガスや太陽熱を用いた発電なども実験段階に入っています。しかし、現在の応用は、これらの特殊な範囲のみに限定されています。その理由は、現在の効率が8~16%と、他の発電機関に比べて低いためであり、より効率の高い材料の発見、開発が求められています。熱電変換材料の理論効率は、高温部の温度 THと、低温部の温度 TL を用いて、以下の式のように表されます。

熱電変換材料のエネルギー変換性能を表す指標として、無次元性能指 ZT

(=S2T/ρκ) が用いられます。

ここで S は、ゼーベック係数(熱起電力;温度差1K当たりで生じる起電力)、

T は絶対温度、ρ は電気抵抗率、熱伝導率 κ です。 ゼーベック係数が高く、電気抵抗率と熱伝導率が低いほど、性能は高くなります。

ZT は、カルノー効率と比較して、熱電変換の効率を簡便な形で表すことができるため、性能評価において重要な値とされており、実用化の目安は、自動車の排熱利用で ZT = 1.5~2、マイクロ発電で ZT = 0.5~1と考えられています。

大きな ZT を得るためには、上式において、より高い電気伝導率、またはゼーベック係数、もしくは、より低い熱伝導率をもつ材料を用いる必要があることが分かります。これらの値は材料に固有なもので,熱電変換のための材料として、これまで様々な物質が提案されてきました。歴史的には、1821年に Seebeck によって、金属のゼーベック効果が発見されて以降、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)などの単体金属や、半金属の熱電効果が主に調べられています。その後、熱電変換材料として現在でも研究されている、ビスマステルル(Bi2Te3)や、シリコンゲルマニウム(SiGe)12合金などの、金属間化合物半導体が対象とされ始めました。Bi2Te3 系化合物は、室温から約450Kまでの低温域で、比較的大きな ZT をもつ熱電変換材料です。一方 SiGe は、高温域での高安定性、低環境負荷という利点を持っています。その後、ガラスのように低い熱伝導率を持ち、電子は結晶中のように振る舞う、移動度の大きい PGEC (Phonon Glass & Electron Crystal)という物質が、熱電変換材料として適していると提唱されました。

また、カゴ状構造物質における、カゴ内のゲスト原子のラットリング運動による格子熱伝導率の抑制という、新しいコンセプトも提唱されました。これを基に、それまで研究されてきた熱電変換材料と共に、スクッテルダイト化合物、ハーフホイスラー化合物、クラスタレート化合物、酸化物系など、それまでの材料と比べ ZT の大きい、新しい熱電変換材料の研究も行われるようになりました。

一方、低次元系でZTが増加するという理論が発表されて以降、従来の方法に加え、近年の技術の進歩により可能になった、ナノレベルでの構造制御を用いた研究が盛んに行われるようになってきました。Bi2Te3 を用いた場合、2次元量子井戸において最大 ZT = 6.9、ナノワイヤーにおいて、最大 ZT =14 となる可能性を示す報告もあります。この大幅な ZT の向上は、量子閉じ込め効果による電子状態密度の増加と、フォノンの平均自由行程の制限による、熱伝導率の低減によるものであると考えられています。

ノ構造化された熱電材料内の熱伝導に関しての議論をする際、フォノンの概念を用いることが一般的です。フォノンとは、格子振動を量子化したものであり、半導体において、熱は主にフォノンにより輸送されます。例えば、長さLの結晶中を、平均自由行程のフォノンが移動する場合の、ナノ構造化された結晶内におけるフォノン輸送の模式図を図1に示します。に比べ、Lが十分大きい場合、フォノンは界面に到達する前に拡散します。一方、に比べ、L が十分小さい場合、フォノンは拡散することなく、界面に到達します。後者の場合、フォノン輸送は界面の影響を大きく受けることになり、本来の熱伝導能力が制限されるため、熱伝導率が低減されます。このような原理で、ナノ構造化により長さ L が小さくなり、界面が増加することで、熱伝導率は低減されます。一方、電気伝導を電子の移動と考えると、電気伝導率も熱伝導率と同様に議論することができます。熱伝導率を低減するためにナノ構造化を用いると、界面が増えるため電子も散乱され、電気伝導率も低下します。しかし、電子の平均自由行程は、フォノンの平均自由行程に比べて非常に小さいため、フォノンに比べて、電子はナノ構造化の影響が少なく、熱伝導率と比較しても電気伝導率は低下しません。そのため、適した大きさのナノ構造を作製することで、電気伝導率を維持しつつ、熱伝導率を低減させ、 ZT を向上できると考えられます。これらの理論から、ZT を向上させるために、多くの研究でナノレベルでの構造制御が用いられるようになりました。その例として、量子井戸、超格子構造、ナノワイヤ―などがあります。