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量子ドットと光触媒

触媒とは、太陽や蛍光灯などの光が当たることで、その表面で強力な酸化力が生まれ、接触してくる有機化合物や細菌などの有害物質を除去することができる「環境浄化作用」や、水から光の力によって、水素と酸素を発生させるような「触媒作用」のことです。光によって励起状態になり、そのエネルギーを他に与えることができる物質は、光触媒用の触媒材料になり得ます。典型的な光触媒は半導体であり、TiO2 のような金属酸化物半導体がよく知られています。

光触媒は、次のような原理で働いています。

1.紫外線や可視光などの光をあてる

例えば、代表的な光触媒材料である二酸化チタンに光(紫外線)が当たると、その表面から電子が飛び出します。このとき、電子が抜け出た穴は正孔(ホール)と呼ばれており、プラスの電荷を帯びています。

2.OH ラジカルの出現

正孔は、強い酸化力をもち、水中にある OH-(水酸化物イオン)などから電子を奪います。このとき、電子を奪われたOH-は、非常に不安定な状態の OHラジカルになります。電子が引き抜かれた OH 基は不安定となるため、さらに自身の外で接触してくる、空気中の臭い成分や、水中に溶けた化合物など、鎖状有機化合物から電子を奪い、活性化された OH 基となり、この OH 基そのものが、安定になろうとします。この OH 基を、ヒドロキシラジカルと呼び、塩素やオゾンよりも高い酸化力を持つものとして理解されています。

3.有機物をバラバラに

ヒドロキシラジカルは、強力な酸化力を持つために、近くの有機物から電子を奪い、自分自身が安定になろうとします。このようにして、電子を奪われた有機物は、結合を分断され、最終的には二酸化炭素や水となり、大気中に発散していきます。二酸化チタン自体は半導体であるので、光のエネルギーをもらうことで、自分自身が高エネルギーの状態となり、光が当たった表面の電子を放出します。このとき、もらったエネルギーが充分に高ければ、価電子帯というところにあった電子(e-)は、一気に伝導帯まで飛び上がることになります。このようにして電子が飛び上がるエネルギーは、光から得ることになりますが、この光のエネルギーは、光の波長と考えられ、電子が飛び上がらなければならないハードルの高さから、このエネルギーは、二酸化チタンの場合、紫外線の波長(380nm以下)をもつ光であることが必要とされます。

E=hn  n=c / λ  したがって、 E=hc / λ

E : エネルギー   h : プランク定数  v : 振動数  c : 光速  λ : 波長

ここで、E は二酸化チタン 3.2eV(3.2eV=3.2×1.6×10-19J)であり、既知数(c : 3.0×10m/s、h : 6.63×10-34 J・s)を代入して解くと、必要な波長は約380nmとなり、光触媒がはたらくのに必要な光とは、紫外線であることがわかります。

光触媒の主な作用としては、

・大気浄化:空気中の NOx や SOx、ホルムアルデヒドなどの有害物質の除去

・脱臭:アセトアルデヒド、アンモニア、硫化水素などの悪臭の分解

・浄水:水中に溶解した汚染物質であるテトラクロロエチレンや、トリクロロエ

    チレンなどの揮発性有機塩素化合物の分解、除去

・抗菌:抗菌作用によるクリーンな環境の維持

・防汚:窓ガラスや外壁などの汚れを防ぐ

などが挙げられます。

触媒は、これまでそのほとんどが、屋外で使われてきました。というのも、二酸化チタン光触媒が機能を発揮するには、太陽光に含まれている、高エネルギーの紫外光が必要だからです。そこで、光触媒の新たな利用方法や応用範囲の拡大を求めて、蛍光灯などの室内光でも機能を発揮する、新しい可視光応答型光触媒の研究開発が行われてきています。これまでに、鉄、銅などの金属をドープした酸化チタン、特に酸化タングステンが、顕著な可視光応答を示す材料として研究が行われています。

年、これらの材料の他にも、量子ドットを光触媒材料に応用しようと試みたある研究があります。

量子ドットは、高い比表面積と高い励起量子収率、酸化・還元準位の制御性などの観点から、新たな光触媒として期待されています。しかし、光照射によって生成した励起子のボーア半径よりも、量子ドットの粒子径の方が小さく、励起子は常に同じ空間内に存在するため、量子ドット内で励起電子とホールとが、空間的に電荷分離ができません。つまり、量子ドットからなる光触媒は、空間的電荷分離ができないため、励起子の再結合確率が高いのです。励起子が再結合すると、生成した励起子が目的とする、反応の光触媒として使われないため、触媒能が低いという問題が出てきます。よって量子ドットを用いた、反応効率の高い光触媒を光照射によって行うためには、生成する励起電子とホールとを、空間的に電荷分離させ、励起子の再結合確率を低下させる、量子ドット複合光触媒が必要となってきます。このような理由から、酸化チタン、酸化タングステンの量子ドットを複合化させた研究もあります。

子ドットの光触媒作用の完全なメカニズムは、まだわかっていませんが、提案はされています。まず、価電子帯の電子が伝導体に励起され、電子 - ホール対ができます。

QDs + hv → QDs (e- CB + h+ VB )

・CB : Conduction Band

・VB : Valance Band

次に、光触媒の界面に存在する酸素分子が、光によって励起された電子によって、スーパーオキシドラジカル(O2•-)と、水素ペロキサイドラジカル(•OOH)となります。

QDs(eCB-)+(O2)ads → QDs +(O2-•)ads

(O2•-)ads + H+ → HO2 •

2HO2 • → H2O2 + O2

H2O2 + e- → OH- + OH•

一方、価電子帯のホールは、量子ドットの表面に吸着した有機物を直接酸化、もしくはこれらのホールと水分子や化学的に吸着したOH-が反応することによって発生したヒドロキシラジカルOH•によって、間接的に有機物を無機化することになります。

子ドットを、光触媒材料として検討した例として、ZnS があります。また、この ZnS の量子ドットに、マンガン、ニッケル、銅などの他の遷移金属をドープすると、光触媒性能が変化するなども報告もあります。このように、量子ドットの光触媒効果や、励起子(電子やホール)の寿命は、そのサイズや金属ドープによって変化します。異金属ドープによって生じる表面準位が、トラップとして作用して、励起子の寿命が延びるなどの効果があると推測されています。このような、金属ドープした ZnS 量子ドット以外にも、グラフェン量子ドット、カーボン量子ドット、CdS、CdS/ZnS、Ag 増感 BiWO6、SnS、ZnS-AgInS2 などの、様々な種類の量子ドットを、光触媒に応用した報告があります。